NASAの超高エネルギー宇宙線観測実験にフレネルレンズを提供

―超高圧成層圏気球の放球に成功、初の成層圏での観測に期待―

理化学研究所(理研)グローバル研究クラスタ EUSOチーム、戎崎計算宇宙物理研究室、大森素形材工学研究室らの共同研究グループ※は、超高エネルギー宇宙線観測用の超広角望遠鏡に使用する1m角のプラスチックフレネルレンズ[1]を開発・製作しました。このフレネルレンズを用いた超広角望遠鏡を搭載した、NASAの超高圧成層圏気球(SPB: Super Pressure Balloon)[2]は、2017年4月25日早朝(日本時間)、ニュージランドのワナカからの放球に成功しています。

宇宙空間を飛び交っている高エネルギーの微粒子である宇宙線は地球にも絶えず降り注いでいます。その中に含まれる、1020eV(エレクトロンボルト)[3]を超える超高エネルギー宇宙線は極めて観測数が少なく、その起源は分かっていません。その飛来頻度は、山手線エリアほどの面積に対して1年に1回程度で、地上での観測には限界があるため、気球や衛星を使い、超高エネルギー宇宙線が大気突入時につくる空気シャワー[4]を観測し、宇宙線のエネルギーと飛来方向を決める国際プロジェクトが進行しています。具体的には、NASAが超高圧成層圏気球を使って高度40kmの成層圏から1018~1019eVの超高エネルギー宇宙線観測を目指す「EUSO-SPB」を進めています。

共同研究グループは、超精密加工技術を生かして1m角のプラスチックフネレルレンズを設計・作製し、EUSO-SPBで使用する宇宙線観測用の超広角望遠鏡に提供しました。レンズの設計は、EUSOチームと戎崎計算宇宙物理研究室が行い、製作は、大森素形材工学研究室を中心に、日本特殊光学樹脂株式会社、池上金型工業株式会社で行いました。さらに、株式会社サンワ製作所、株式会社シーアイ工業の協力も得て実施しています。EUSO-SPBは、宇宙線を数日に一個程度の頻度で観測できる見込みです。より多くの宇宙線観測データが取得されることを期待しています。

EUSO-SPBには、米国を中心に、日本、フランス、イタリア、ドイツ、アルジェリア、ポーランド、メキシコなどの多くの国の研究者が関わっています。それぞれの国が抱える制約や、タイトなスケジュールの中、互いに補い合うことで宇宙線観測用望遠鏡用を完成させ、今回の観測開始に至りました。

なお、共同研究グループは、2017年の秋にイタリア及びロシアの宇宙機関が共同で実施する「Mini-EUSO」にもフレネルレンズを提供する予定です。

※共同研究グループ

理化学研究所 グローバル研究クラスタ 宇宙観測実験連携研究グループ EUSOチーム
理化学研究所 戎崎計算宇宙物理研究室
理化学研究所 大森素形材工学研究室

1.背景

宇宙空間を飛び交っている高エネルギーの微粒子である宇宙線は、地球にも絶えず降り注いでいます。1990年代、その中に1020eV(エレクトロンボルト)を超える超高エネルギー宇宙線が含まれることがわかりました。しかし、山手線内エリアほどの面積に対して1年に1個程度という極めて少ない観測数のため、その起源は分かっていません。また、特殊相対性理論によるとGZK限界(4×1019eV)[5]を超える超高エネルギー宇宙線は地球に飛来しないはずです。このため、同理論の超高エネルギー領域での妥当性について論議を呼んでいます。超高エネルギー宇宙線の起源を明らかにするためには、観測範囲を広げて観測数を増やす必要がありますが、地上の観測には限界があります。そこで、気球や衛星を使って超高エネルギー宇宙線が大気突入時につくる空気シャワーを観測し、そのエネルギーと到来方向を決める国際プロジェクトが進行しています。実際に理研でも、マルコ・カソリーノ チームリーダーらが、高度400kmの軌道上にある国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟(JEM)に超広角望遠鏡を設置し、1020eVを超える超高エネルギー宇宙線の観測を目指す国際プロジェクト「JEM-EUSO[6]」を推進しています。

2.研究手法と成果

NASAは、超高圧成層圏気球(Super Pressure Balloon)を使って高度40kmの成層圏から1018~1019eVの超高エネルギー宇宙線観測を目指す「EUSO-SPB」を進めています(図1)。2017年4月25日早朝(日本時間)には、ニュージランドのワナカからの放球に成功しました(図2)。SPBには広角望遠鏡など約1トンの観測機器がつるされていて、成層圏で観測を行います。これによって、1週間で数回程度の宇宙線の観測が見込まれます。

このEUSO-SPBにおいて、マルコ・カソリーノ チームリーダーらは、広角望遠鏡のレンズの設計・製作を担当しました(図2)。NASAがこのような主要部品の製造を米国以外に依頼することは極めて異例です。レンズの設計は、EUSOチームと戎崎計算宇宙物理研究室が行い、製作は、大森素形材工学研究室を中心に、日本特殊光学樹脂株式会社、池上金型工業株式会社で行いました。さらに、株式会社サンワ製作所、株式会社シーアイ工業の協力も得て実施しています。

図1 EUSO-SPBによる観測概念図

図1 EUSO-SPBによる観測概念図

宇宙からやってくる超高エネルギー宇宙線が作る「空気シャワー」という荷電粒子(主に電子と陽電子)が、大気の窒素分子を励起して発する紫外線の蛍光を、超高圧成層圏気球に吊るした広角望遠鏡などからなる観測装置で観測する。

図2 超高圧成層圏気球の放球の様子

図2 超高圧成層圏気球の放球の様子

2017年4月25日早朝(日本時間)、ニュージランドのワナカからの放球に成功した。気球には図左側の広角望遠鏡を含む観測装置が吊るされている。

3.今後の期待                               

2017年の秋には、Mini-EUSO望遠鏡がISSに打ち上げられる予定です。Mini-EUSOは、イタリア及びロシアの宇宙機関が共同で実施するプロジェクトで、口径25cmの小型望遠鏡をISSのロシア実験棟の窓に設置し、地球の夜の背景光観測等を行う、大型EUSOミッションの予備実験です。EUSO-SPBで用いた検出器と同型のものを、成層圏ではなく宇宙で使用します。また、Mini-EUSOのフレネルレンズは、EUSO-SPBと同様に、設計をEUSOチームと戎崎計算宇宙物理研究室が行い、製作は大森素形材工学研究室が行います。

さらに、ロシアが進めているKLYPVEミッションに共同研究グループが参加するK-EUSOプロジェクトでも、共同研究グループは補正レンズを設計・製作する予定となっています。K-EUSOは2020年頃、ISSの船外に設置され、初めての宇宙空間での超高エネルギー宇宙線観測を行う予定です。

4.補足説明

[1] フレネルレンズ
通常のレンズの同心円状の領域を、レンズの表面・裏面の曲線構造を分割して厚みを減らして配置したもので、結果としてのこぎり状の断面構造を持つレンズとなる。使用する材料を減らし、軽量・薄膜化できる特性を持つが、同心円状に段差が入るため、散乱が起きる関係で結像能力は落ちる。集光型太陽電池の場合、それほどの結合能力は要求されないため、よく用いられる。材料は価格を抑えるためにプラスチックが多く用いられており、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などが代表である。
[2] 超高圧成層圏気球(Super Pressure Balloon)
通常の大気球は、気密性が低くヘリウムガスの消散が速いため約高度40㎞の成層圏滞在が数日に制限されるのに対し、超高圧成層圏気球は気密性が高く、1か月を超える成層圏での滞在・観測を可能にし、最長100日に達する可能性がある。
[3] 1020eV(エレクトロンボルト)
電子ボルト。1eVは、1Vの電位差で電子を加速するときに電子が得る運動エネルギーで、約1.6×10-19ジュールに相当する。1020eVは、加速器でつくり出せる最高エネルギーのおよそ1,000倍。
[4] 空気シャワー
超高エネルギー宇宙線が地球大気に突入すると、大気中の窒素や酸素の原子核と衝突し電子や陽子などの粒子を発生する。それら粒子が再び大気中の原子核と衝突し、さらに多くの粒子を発生する。これを空気シャワーと呼ぶ。空気シャワーは蛍光紫外線を発生するので、これを連続撮影すればその宇宙線のエネルギーと飛来方向がわかる。
[5] GZK限界(4×1019eV)
宇宙は、宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれるビッグバンの残光で満たされている。特殊相対性理論により、宇宙のどこかで超高エネルギーの宇宙線が発生したとしても、1.5億光年ほど飛べばそのマイクロ波と相互作用して速度が落ち、4×1019eV以下にエネルギーが減衰する。同エネルギーを超える超高エネルギー宇宙線が観測され、その方向の1.5億光年以内に天体が存在しなければ、超高エネルギー領域では特殊相対性理論が成立しない可能性がある。
[6] EUSO
宇宙から地球大気を観測し、超高エネルギーの宇宙線がつくる微弱な蛍光紫外線を捉える観測装置のこと。日米欧など16か国が協力して製作準備が進められている。EUSOとはExtreme Universe Space Observatoryの略。

5.機関窓口・問い合わせ先                         

<問い合わせ先>*本件の技術的内容については下記担当にお問い合わせ下さい

理化学研究所 グローバル研究クラスタ 宇宙観測実験連携研究グルプ EUSOチーム
チームリーダー マルコ・カソリーノ(Marco CASOLINO)
TEL:048-467-9074 FAX:048-467-4078
E-mail:marco.casolino@riken.jp

<機関窓口>

理化学研究所 広報室 報道担当
TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715
E-mail:ex-press@riken.jp